大江戸シンデレラ

部屋の中は、まったく行燈(あんどん)に火が入れられておらず、外と変わらぬほど夜の闇に沈んでいた。

あいにく今日は、月が顔を見せぬ朔の日だ。

かろうじて、人の気配が(わか)るくらいだった。


目を慣らそうと美鶴が真っ暗闇を見渡していると、いきなり腕を取られてあらぬ方向へ引き寄せられた。

気がつけば、夫の腕の中に美鶴はいた。


「広次郎さま……」

夫の胸に(いだ)かれた美鶴は、ぽつりとつぶやいた。

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