大江戸シンデレラ
「……ひ、広…次郎…さ…ま……」
かすれた声で、美鶴はつぶやいた。
ほんの少しでもいいから、ゆるりと動いてほしかった。
すると、激しかった動きがぴたり、と止んだ。
「そちは……」
右も左も判らぬ真っ暗闇の中で、滅法界もなく冷え切った固い声が、上から降ってきた。
「この期に及んで……まだ、ほかの男の名を申すか」
美鶴の目が、かっと見開かれた。
額に浮かんだ玉のような汗が一気に引っ込み、すーっと肝が冷えていく。
——まさか……このお方は……
広次郎さまではないと云うのか……