大江戸シンデレラ

美鶴には、なにが如何(どう)なっているのか、さっぱり(わか)らなかった。

島村 勘解由(かげゆ)からは、確かに美鶴が広次郎と祝言を挙げて夫婦(めおと)になることを告げられていたはずだ。

広次郎とも、その心算(こころづもり)で話を交わしたはずた。


なのに、なぜ——


「夫」が美鶴の胎内(なか)から己を引き抜いた。

すかさず身を離されたかと思うと、衣擦(きぬず)れの音が聞こえてきた。
おそらく、先ほど脱ぎ捨てた寝間着をまた身につけているのであろう。


「興が()めた。とっとと部屋へ戻れ。
……明日からはもう二度と、(それがし)の寝間に来るでない」

吐き捨てるように美鶴にそう告げると、暗闇の中にもかかわらず器用に行燈(あんどん)の火を()けた。


そして、

夜目に浮かび上がってきたその顔は……

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