大江戸シンデレラ
◇丈母の場◇
何処を如何通ってきたか判らないし、どのくらいの刻が経っているのかも判らなかったが、ようやく美鶴は元の部屋に戻ってきた。
部屋の中はいつ戻ってきてもいいように、女中の手によって縫い物の針箱などはすっかり片づけられ、行燈に火が入れられていた。
武家の御家は同衾はするが、朝まで褥を共にするわけではない。
ゆえに、たとえ美鶴のように夫から追い出されなくても、妻は必ず夜明けまでに夫の寝間から我が部屋に戻らねばならなかった。
歩いて戻ってくる間に、先ほど兵馬によって力ずくで暴かれた胎内が、またじくじく…と痛み出してきていた。
美鶴は初花を散らした血が、内腿を汚していたことを思い出した。
部屋を見回すと、隅の方に水を薄く張った手桶があり、側板に手拭いが掛けられている。
これもまた、女中が支度したものであろう。
美鶴は手拭いを取ると、水に潜らせてから固く搾り、襦袢の裾を捲った。
なめらかで真っ白な内腿が顕われたかと思えば、赤黒くなった血が筋になってこびり付いている。
美鶴は手拭いで丁寧に清めた。
脚の間からの血はすっかり止まっていたが、やはり胎内がずくずくと痛い。
思わず、ため息を一つ吐く。
—— 吉原の廓で生まれ育ったと云うに「振袖新造」なぞと持て囃されて……
客も見世も、あないに皆で後生大事に護ってきた初花が……
よもや、かように呆気なく散らされることになろうとは……