大江戸シンデレラ

刹那のうちに、真っ暗闇となった。

目を閉じると、長かった今日一日が甦ってくる。


突然、訳もわからず連れてこられたと思えば、膳どころか仲人も客もおらず、ましてや寿(ことほ)ぐ余興もない、まるで通夜のごとき「祝言」であった。

だが、それでも、こうして武家の娘となったからには……

「たとえ相手がだれであろうと、御家(おいえ)のための縁組こそ武家の大義」

と云う刀根(とね)の指南を信じ、美鶴は思い定めた。


にもかかわらず……

——なにゆえ、夫になるお方が若さまでのうて、広次郎さまだと(いつわ)りを聞かされたのか。

島村 勘解由(かげゆ)だけではなく、広次郎自身からもそう聞いたのだ。


今までずっと、(こら)えに堪えて抑え込んできたやり切れなさが、ようやく美鶴にこみ上げてきた。

血の気が引いて青白くなったその頬に、つーっと涙が伝う。


——もし、初めから……夫になるお方が、

「若さま」だと知らされておれば……

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