大江戸シンデレラ
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(あく)る朝、突然枕元から声が掛かった。

「……御新造(ごしんぞ)さん、おはようさんでやす」

(たちま)ちのうちに、美鶴の目が覚めた。
思わず、ばちり、と目が開く。

()の方角に近いその部屋は、すでにさんさんと差し込む朝日で(まぶ)しいくらいであった。


「朝っぱらから叩き起こしちまって、勘弁してくだせぇ。
……お身体(からだ)は、如何(いかが)でやんすか」

昨日の女中が、心配そうに美鶴の顔を覗き込んでいた。
一重の細い目の、のっぺりとした目鼻立ちをした中年の女だ。


「身体は造作ないゆえ……」

身体は疲れからか、なんだかだるくて仕方がなかったが、昨夜のずくずくした胎内(なか)の痛みは(おさ)まり、今はひりひりするくらいになっていた。

美鶴は夜着から身を起こした。
すぐに、おせいが(せな)を支えてくれる。


「そりゃあ、良うござんした」

女は、ほっとした顔を見せた。

「御新造さん、あたいはおせい(・・・)と云いやして、女中頭をしておりやす。
この松波の御家(おいえ)には、奥様がお嫁入りなさる前から奉公していやすんでさ」

さように女が名乗ったため、

「わたくしは美鶴と申しまする。
おせい、()れよりよろしゅう頼みまする」

美鶴も名乗りを上げる。

身分が上の武家が、下である町家の者より先に名乗るのは御法度だった。むしろ、名乗らなくてもいいくらいだ。
もちろん、刀根の「教え」である。


「御新造さんのこったぁ、奥様からよっく仰せつかっとりやすんで、このあたいになんなりと申し付けてくだせぇ」

おせいはさように云うが、島村の家にいた歳の近いおさと(・・・)とは立場が違う。

(とう)の立つおせい(・・・)は美鶴の身の廻りのことだけではなく、松波家に慣れるための「目付役」も任されていると思われた。


「そいじゃあ、奥様が御新造さんをお呼びなすっていなさるから、身支度をお手伝いしやす」

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