大江戸シンデレラ
美鶴は鶯茶色の小袖を着付けたあと、その上に紅鼠色の打掛を羽織った。
丸髷に結った髪に、剃り落とした眉、お歯黒をつけたその姿は、何処を如何見ても「お武家の御新造さん」だ。
つい先達てまで、吉原の廓で「振袖新造」だったおなごであったなぞ、だれが信じられようか。
おせいの先導によって、午の方角にある座敷の前まで来た。
おせいがすっ、と下がる。
美鶴は明障子の前で正座した。
「……美鶴にてござりまする」
声が震えぬよう、腹に力を入れて申す。
「お入りなされ」
中から声がした。女人のものだった。
美鶴は一度息を吸って、背筋を伸ばしてから、明障子をすーっと開けた。
「御姑上様……お初にお目にかかりまする。
美鶴にてござりまする」
美鶴は深々と平伏する。
「御無礼仕りまする」
そして、座敷の中へと入った。