大江戸シンデレラ
「そなた……『美鶴』殿と申されるか。
図らずも、わたくしとよう似た名でござりますること」
平伏していた美鶴が面を上げると、梅幸茶色の小袖に藤鼠色の打掛を羽織った形の、いかにも「武家の奥方」と云った風情の女人が座敷の奥に座していた。
「此の方こそ、お初にお目にかかりまする。
公方様の御不幸に慮ったとは云え、昨日の南町奉行所でのそなたらの祝言に出ること叶わず、誠に無礼をば仕ってござりまする」
そして、ゆったりと微笑んだ。
「南町奉行所 筆頭与力 松波 多聞が奥の……
…… 志鶴にてござりまする」