大江戸シンデレラ

「……美鶴殿、身体(からだ)の方は大儀ござらぬか」

志鶴が心配そうな(おも)持ちで尋ねてきた。

「今朝は面通しをせねばならぬゆえ、そなたを呼び立ててしもうたが、もし身体が辛ければ部屋で横になっておっても……」

「と、とんでもないことにてござりまする」

美鶴は弾かれたように答えた。

姑上(ははうえ)様、わたくしめの身体はこのとおり差し支えのうございまするがゆえ、どうか、さような御心遣いは一切なきよう……」

嫁入って(あく)る日から寝込むなど、なにもお武家に嫁がなくとも御法度なのは、火を見るよりも明らかだ。


「されども……」

なぜか美鶴の言葉に、志鶴はすぅーっと目を細めた。

歳を経てもなお、その美しくも冷ややかな「北町小町」の面差しは、まるで天女が下賤なこの世の者に放つかのごとき神々しさである。

「我が息子とは云え、あの愚か者が、昨夜そなたにした仕打ちを思えば……」

だが、美鶴はなぜだか天罰に触れたかのような心持ちになり、背筋が凍って、後ずさりしたくなった。


「わたくしは、兵馬を……決して(ゆる)すことはできぬ」

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