大江戸シンデレラ

「お、奥様……っ」

座敷の入り口で控えていた女中のおせい(・・・)が、突然がばりとひれ伏した。

「若さまを……生まれなすったときからお世話さしてきた(もん)として……まことに申し訳ねぇこってす」

畳にぺったりと額をつけて土下座したかと思えば、おいおいと泣き始めてしまった。


「おせい、そなたの所為(せい)ではあらぬ。
わたくしの育て方が悪かったのじゃ。
すべて……わたくしの不徳の致す(ところ)じゃ」

志鶴まで、涙声になっている。

「松波家の嫡男ともあろう者が祝言を終えた初夜(はつよる)に、嫁御に対してあのような狼藉を働くなぞ、与力の御家の……(いな)、武家の風上にも置けぬわ」

志鶴は口惜しさのあまり、唇を噛み締めた。

「かように情けない嫡男を育ててしもうて、わたくしはご先祖様に……
特に、あないに兵馬の誕生と成長を楽しみにしてござった、今は亡き舅上(ちちうえ)様と姑上(ははうえ)様に……
あの世へ参っても、到底顔向けできぬ……」


——も、もしや……


美鶴は、二人が昨夜の閨でのことを云っているのに、ようやく気づいた。

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