大江戸シンデレラ
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「御新造さん、嫁いできなすった早々、奥様の前で恥ずかしい思いをさせちまって、申し訳ねぇこってす」
志鶴の座敷から自室に戻ってきた美鶴に、正座したおせいが手をついて深々と頭を下げた。
どうやら、姑である志鶴の前で、兵馬と美鶴の寝間での話をしてしまったことを謝っているようだ。
だが、吉原の廓で生まれ育った美鶴にとって閨事は「生業」であり、もともと他人に知られて恥ずかしいと云う心持ちはほとんどなかった。
初花を散らすときに(あないにひどいとは思わなかったが)痛みを伴うというのは、幼き頃よりあたりまえのように聞かされていた。
また、売られてきたおなごが女郎になって初客を取り初花を散らされた際には、見世は敢えて夜具を破瓜の血で汚すままにしていた。
汚れた夜具を見た客が「生娘だったのは本当であったのだな」とえらく喜ぶからだ。
たとえ生娘であっても、中には破瓜の血が流れぬおなごもいたから、初花を散らされた女郎の方も夜具が汚れてほっとしていたくらいだ。
昨夜は、突然のことに流石に気が動転して兵馬の前では恥ずかしい思いをしたり、そのあとつい心が揺らいで脆くなったりしてしまった。
ところが、平生の心待ちに落ち着きを取り戻した今朝はもう、特段さようなことは思っていなかった。
むしろ、「松波家の嫁」としての第一歩である「御役目」を無事果たせて、美鶴もまたほっとしていた。
閨ではほかの男の名をつぶやいてしまったが、兵馬には我が身が生娘であったことを、しっかりと判らせることはできた。
「おせい、気に病むことはごさらぬ。
わたくしは何とも思うておらぬがゆえ」
美鶴がかように告げると、
「やっぱり御新造さんは、若さまにはもったいねぇ。まるで、観音菩薩様のようなお方でさ」
涙ぐんだおせいが、ずずっと洟をすすった。
そのまま放っておけば、いつしか美鶴に手を合わせて拝んでいたかもしれない。
「御新造さん、嫁いできなすった早々、奥様の前で恥ずかしい思いをさせちまって、申し訳ねぇこってす」
志鶴の座敷から自室に戻ってきた美鶴に、正座したおせいが手をついて深々と頭を下げた。
どうやら、姑である志鶴の前で、兵馬と美鶴の寝間での話をしてしまったことを謝っているようだ。
だが、吉原の廓で生まれ育った美鶴にとって閨事は「生業」であり、もともと他人に知られて恥ずかしいと云う心持ちはほとんどなかった。
初花を散らすときに(あないにひどいとは思わなかったが)痛みを伴うというのは、幼き頃よりあたりまえのように聞かされていた。
また、売られてきたおなごが女郎になって初客を取り初花を散らされた際には、見世は敢えて夜具を破瓜の血で汚すままにしていた。
汚れた夜具を見た客が「生娘だったのは本当であったのだな」とえらく喜ぶからだ。
たとえ生娘であっても、中には破瓜の血が流れぬおなごもいたから、初花を散らされた女郎の方も夜具が汚れてほっとしていたくらいだ。
昨夜は、突然のことに流石に気が動転して兵馬の前では恥ずかしい思いをしたり、そのあとつい心が揺らいで脆くなったりしてしまった。
ところが、平生の心待ちに落ち着きを取り戻した今朝はもう、特段さようなことは思っていなかった。
むしろ、「松波家の嫁」としての第一歩である「御役目」を無事果たせて、美鶴もまたほっとしていた。
閨ではほかの男の名をつぶやいてしまったが、兵馬には我が身が生娘であったことを、しっかりと判らせることはできた。
「おせい、気に病むことはごさらぬ。
わたくしは何とも思うておらぬがゆえ」
美鶴がかように告げると、
「やっぱり御新造さんは、若さまにはもったいねぇ。まるで、観音菩薩様のようなお方でさ」
涙ぐんだおせいが、ずずっと洟をすすった。
そのまま放っておけば、いつしか美鶴に手を合わせて拝んでいたかもしれない。