大江戸シンデレラ
突然、ざっくばらんな町家言葉が聞こえてきた。
驚いた美鶴は思わず面を上げる。
すると、さような砕けた物云いとは裏腹に、床の間を背にし武士らしく姿勢を正して座する、壮年の男が目に映った。
本日の御役目を終えて南町の組屋敷に帰ってきた男は、すでに寛いだ着流し姿だった。
されども、その目の鋭さだけは決して緩むことはなく、きっと江戸府中を取り締まる御役目に臨んでいる際と、さほど変わらぬに違いない。
——このお方が……
かつて「浮世絵与力」と呼ばれた御仁でござりまするか……
吉原にいた頃、町家の噂でさんざん聞き及んではいたが、当人を前に拝顔したのは初めてだった。
——あぁ、やはり、若さまによう似てなさる。
きりりと精悍な面立ちで頭は粋な本多髷はもちろん、にやりと不敵に笑みを浮かべるさまは、まさにこの父から兵馬へと「生き写し」されたものだ。
美鶴は黙ったまま、呆けたようにぼんやりと眺めてしまった。