大江戸シンデレラ

「この松波家の主人(あるじ)で、南町奉行所の筆頭与力・松波 多聞だ」

舅から名乗りを上げられ、途端に我に返った美鶴は、

「あ、改めまして……美鶴にてごさりまする」

と告げて、あわててまた平伏する。


此度(こたび)のこったぁ、おめぇさんにとっちゃ思いがけねぇことが多すぎて、なにかと大儀であったな」

「か、かたじけのう存じまする」

平伏したまま、礼を述べる。

「だがな、この縁組にはおれらのような町方役人風情にゃあどうすることもできやしねぇ、(うわ)(かた)の『(おぼ)し召し』ってもんが絡んでっからよ」

あの祝言の場で、てっきり美鶴が広次郎の父親だと思っていたのは、この多聞であった。

「おめぇさんも思う(ところ)があるかもしれねぇが、どうか了見してくれな」

——もしかして、島村の家では祝言の相手が広次郎さまだと聞かされてござったことを云うておられるのか……


だが、たとえそうであれ……

「もったいなき御言葉にて、恐縮至極にてござりまする」

美鶴に云える言葉はこれよりほかはない。

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