大江戸シンデレラ
「おいおい、堅っくるしい挨拶は抜きにしてくんな」
歳を経て渋みを重ねたが、それでも決して損なわれることのない端正な顔を、多聞は困ったように歪めて苦笑した。
「おめぇさんには、これからもずいぶん苦労をかけるたぁ思うけどよ。
……どうか、うちの不肖の倅・兵馬のことを末永くよろしく頼むぜ」
嫁入って早々、かようなことを舅の口から云われては、恐縮しきりの美鶴の頭がますます下がる。
「わたくしの方こそ、此方の御家の方々がご覧ずれば不作法極まれりと思われまする。
つきましては、舅上様や姑上様には何卒、末永く御指導・御鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げまする」
「回りくでぇ口上はいいからよ。
ちょいとおめぇさんの面を上げて、よっく見してくれねぇか」
多聞に促され、美鶴はようやく下げていた顔を上げた。
多聞の眼光鋭き目が、すーっと細くなる。