大江戸シンデレラ
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ある日、おせいが(かしこ)まった顔で美鶴の部屋にやってきた。

「御新造さん、あたいが(せわ)しゅうて、お世話するどころかろくに話もできんで……誠にすまんこってす」

おせいは薄い眉をハの字にして、心根から済まなさそうな声音(こわね)で詫びる。

「そんで、奥様のお(はか)らいで、御新造さんの身の回りの世話をする(もん)を一人新たに雇い入れたんで……」
「さ、さようなことは無用でごさりまする。
そもそも、わたくしは我が身のことは我が身にてできまするがゆえ」

美鶴はびっくりして、おせいの話を遮った。

女中頭がそないに一人の者に構ってはおられぬのは、無理もないことだと心得ていた。


すると、そのとき……

「お嬢……いえ、御新造さん」

中庭に面した縁側に正座していたおせい(・・・)の後ろで控えていたおなごが、ずいと膝を前に進める。

「……おさと……そなたは、おさとではござらぬか」

其処(そこ)にいたのは、島村の家にいた時分に美鶴の世話をしてくれていた、おさとであった。

突然の祝言の日以来、ぱったりと姿を見ることができなくなっていた。


「どうかこの御家(おいえ)で、あたいに御新造さんのお世話をさしておくんなせぇ」

おさとは板敷の縁側の床に額が付くくらい、深々と頭を下げた。

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