大江戸シンデレラ
「御新造さんは、そいでのうてもこの南町の組屋敷に馴染みがいなさらん上に、元は組屋敷すら縁のねえ、お大名の下屋敷のお育ちだ」
此度のことになった経緯を、おせいが語る。
「そんな御新造さんがちいっとでも心置きのう過ごすためにゃ、しばらく身を寄せなすった北町の島村様の処の者を、この松波の御家に招べばいいんじゃないか、と奥様がお取り計らいになったんでさ」
おそらく、兵馬のことで気苦労をかけていることへの罪滅ぼしもあるのかもしれない。
さすれども……
以前、おせいが『やっぱり御新造さんは、若さまにはもったいねぇ。まるで、観音菩薩様のようなお方でさ』と云うたことがあったが……
——わたくしにとっては……
姑上様こそが「観音菩薩様」であられまする。
美鶴は手を合わせて拝みたいくらい、ありがたかった。
「島村の旦那様より『おさと、松波様へはおまえが参れ』って命じられたときにゃ、あたい、お嬢……じゃなかった、御新造さんのお世話がまたできるんだと思って、そしたらうれしくって……」
おさとは涙ぐみ、ぐすっと洟をすすった。
「おさと、そなたが来てくれて、わたくしもうれしゅうござりまする。
あ、早速で悪うござりまするが……此処の糸の始末が……」
美鶴は夫のために縫っている浴衣を引き寄せて、おさとに見せる。
おさとは縫い物の上手であった。
それだけとってみても、来てくれて美鶴には如何ほど心強いか。