大江戸シンデレラ

「そいじゃあ、あたいはこれで……」

二人の様子を見て安心したおせい(・・・)が腰を上げた。

「おせい、姑上様には何卒(なにとぞ)由無(よしな)にお願い(つかま)りまする。
わたくしも、姑上様の御都合の良き折を見て、必ずや御礼に参上いたしまするがゆえ」

「御新造さん……」

おせいがまた、その薄い眉をハの字に下げる。

「あたいらのような下々の(もん)に、そないな堅っ苦しい言葉違いは無用でさ」


確かに姑の志鶴は、武家の美鶴に対しての言葉遣いと町家の使用人に対しての言葉遣いは、きっちりと(たが)えていた。

されども、ついこの間まで「(さと)言葉」であった美鶴である。
まだとてもとても其処(そこ)まではできなかった。


「……おせいさん、御新造さんは島村様の御家に来なさった時分は、国許(くにもと)のお故郷(くに)言葉の訛りが抜けねぇで、そうとう難儀しなすってたんだよ。どうか、勘弁したっておくんなせぇ」

おさとが助け舟を出してくれた。

「えっ、そうでやんすか。御新造さん、そいつぁ申し訳ねえ」

おせいが浮かした腰をまた下ろして、頭を下げようとする。

美鶴は「おせい、そなたの……」と云いかけて、

「おまえの申すことは、至極当然じゃ。頭を下げることはない。
これからは……わらわも気をつけるとしよう」

なるだけ、志鶴()の物云いを真似(まね)てみた。


まだまだ、学ぶべきことは山のごとくあった。

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