大江戸シンデレラ

おさとに手伝わせて支度を整えたあと、美鶴は島村の御家(おいえ)へ向かった。

北町と南町に分かれてはいるものの、同じ組屋敷の内である。
美鶴は二人の供を連れて、徒歩(かち)で参ることにした。

おさとがぴったりと美鶴の後ろに付き、付かず離れずの頃合いで中間(ちゅうげん)の男が従っていた。


男の名は弥吉(やきち)と云った。

舅の松波 多聞(たもん)が、まだ見習い与力だった頃より仕えていた古参の中間だが、今は兵馬に付き従っている。

上背(うわぜい)があるわけではなく胸板も薄いため、体格に恵まれているわけではないが、松波の家人の中では滅法腕っ(ぷし)が強いと評判だった。

さらに、目鼻立ちがすっきりと整った面立(おもだ)ちで、若い頃にはなかなかの女泣かせの色男であったと思われる。


——なにやら、吉原の(くるわ)におる用心棒の男衆(おとこしゅ)のごとき者であるな。

初めて弥吉に()うたとき、美鶴はさように感じた。

『御新造さん、弥吉と申しやす。お初にお目にかかりやす』

口許(くちもと)にうっすらと笑みを浮かべてはいるが、切れ長のその目は決して緩んではいなかった。

まるで、美鶴の出自ごと見透かされそうになるほど、鋭き目であった。


——できれば、ほかの中間が良うござんした。

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