大江戸シンデレラ
島村の御家に着くと、美鶴は一番良い座敷に通された。
しかも、床の間を背にした上座に促される。
すぐさま女中に茶を供されたが、一口飲んでかなり上物の味だったため驚いた。
この家にいた頃には、とても考えられぬ扱いである。
「……松波様の奥方様、申し訳ありゃあせんが、当家の旦那様は御役目で今おりゃあせんし、御新造さんは旦那様のお云い付けで奥方様の前にゃあ出らんねぇことになっておりやして」
給仕した女中が、おどおどしながら美鶴に告げる。
「気にせずともよい。当方こそ、前触れもなくいきなり参ってかたじけない。
本日参ったのは、此方で使うておった針箱を譲り受けたいのじゃ。使い慣れた針の方が捗ると思うてな」
「さようでやんしたか。そいじゃあ、急いで持ってくるんでお待ちになっておくんなせぇ」
幾分、ほっとした顔になった女中は座敷から出ていった。
おさと以外の女中とは美鶴は馴染みがなかったが、向こうは美鶴が当家でつらい思いをしているにもかかわらず、なにもできなかったから負い目があるのであろう。