大江戸シンデレラ

「おせいさんから奥様の御用を頼まれてやして、これから町家へ行きやしょう」

即刻、南町の御家に帰るものだと思えば、おさとがそないなことを申し出た。

「御新造さん、毎日家ん中に(こも)りっきりじゃ、今に気鬱になっちまいやすよ。
奥様の御用ってのも、おおかた気晴らしを兼ねておっしゃってんでさ」

「されども……(せわ)しい弥吉は(はよ)う戻らぬと、(みな)が困るゆえ」

同じ組屋敷界隈であれども、武家の妻女が往来を行く際には中間(ちゅうげん)を連れて歩かねばならぬのだ。
町家なら、なおさら居てもらわねば困る。


「御新造さん、あっしは別に構いやせんぜ」

付かず離れずの頃合いを保っていた弥吉が、後ろから声をかけた。

「……いつも、おせいがお世話になっておりやすし」


——あぁ、そうであった。

弥吉はかつて、おせいと所帯を持っていた。

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