大江戸シンデレラ
駕籠が伝馬町に着いた。饅頭屋の前でその駕籠が下ろされる。
美鶴は目隠しの簾の隙間から、外の様子を窺った。
すると、饅頭屋は表に人が溢れるくらい賑わっていた。
すぐに駕籠から降りたおさとが、美鶴の乗る駕籠に声をかけた。
「あたいが店ん中を見てくるんで、御新造さんはちょいとここで待ってておくんなせぇ」
そして、おさとは店へと入っていった。
しばらくして、おさとが戻ってきた。
「御新造さん、店の者が数を用意するのに暇がかかるって云っておりやす」
おそらく、姑は土産として屋敷の皆の分を所望したのであろう。
「此れだけ繁盛しておる店じゃ。仕方あるまい。されども、店先で長居するわけにも行かぬな」
武家の妻女がいつまでも居る処ではなかった。
「……そうじゃ、水茶屋にでも参って、お茶でも飲みながら待たぬか」
「えっ、いいんでやすかい」
おさとの声が高く弾む。