大江戸シンデレラ

美鶴の涙は、まだ止まらなかった。

いきなりあふれ出てきた涙に、一番驚いたのは美鶴であった。

まるで人形のごとく固まり、その場から一歩も動けなくなってしまった。

されども、泣き声をあげることはなかった。

ただただ、涙をはらはらと流すばかりであった。


あとについてくる気配がないため、茶汲み娘が後ろを振り返った。

美鶴の涙を見て、(いぶか)しげな顔になる。

おさとは美鶴にぴったりと付き添い、なるべくその顔を見せないようにしながら、奥の小上がりまで進む。

そして、畳の上に置かれた座布団に美鶴を座らせた。

それから、丸盆を両手で抱えてどうしたものかと様子を窺う茶汲み娘に、あったかいお茶を一つ所望する。

「へぇ、すぐに持ってきやす」と返事して、茶汲み娘は板場へと向かった。

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