大江戸シンデレラ
「羽おり、羽おと、はしたのうなんし。
もうお飯は済んだのかえ」
番頭新造のおしげが、ぴしゃりと窘める。
年端の行かぬ女子たちを躾けるのも、年増の遣り手の役目だ。
廻り部屋の女郎のまま、年季を終えたおしげであったが、つぶし島田の髪がまだまだ婀な女盛りだった。
叱られた羽おりと羽おとは、あわてて手にした茶碗の中の飯を掻き込みだす。
このあとは、姉女郎の羽衣による厳しい歌舞音曲の稽古が始まるためだ。
舞ひつるも、再びおみおつけを食し始めた。
このあと、その道の第一人者であるお師匠からの、羽衣から教わるよりも遥かに厳しい稽古が待っていた。
廓に身を寄せる遊女や女郎にとって、朝餉と昼餉を兼ねた今が、一日の中でも心を落ち着けられる数少ないひとときであった。
昨夜、娼方の中でも上客である御公儀のお偉方としっぽりと共寝し、今朝、泣く泣く後朝の別れをした羽衣は、なにも話をすることなく気だるそうに食後の一服をしていた。
そもそも、羽衣は食が細い。
羽衣は、手にした朱羅宇の吸い口をすうぅと吸って、真っ白な煙をふうぅと一息吐き出した。
そして、莨盆を傍らに引き寄せ、その灰落としに雁首をカンッと叩いて灰を落とした。