大江戸シンデレラ
美鶴の向かいに腰を下ろし、おさとはしみじみと云った。
「御新造さんは、ずーっと気を張っていなすったから……きっと、心が疲れ切っちまったんでさ」
おさとにとって、美鶴が泣いている姿を見たのは初めてのことであった。
島村の御家で、主人の妻の多喜からあれだけの仕打ちを受けていたときですら、美鶴の涙どころか泣き言一つ聞いたことがない。
「御新造さん、ちょいとここで待ってておくんなせぇ」
いつでも気丈な美鶴の、かように弱り切った姿を、おさとはとても見ていられなかった。
「これから弥吉さんを探しに行きやすんで、見つけたら志ほせ饅頭の受け取りは弥吉さんに任せっちまって、あたいはそん足で駕籠を呼んで来やす」
そのとき、茶汲み娘が「へぇ、お待っとさんでやんした」と熱いお茶を持って来た。
おさとが熱い湯呑みを受け取って、美鶴に渡す。
湯呑みを両手で包むように持った美鶴は、ひとくち茶を飲んだ。
心にじわぁっと沁み入る、あったかさであった。
美鶴はまるで幼い子どものごとく、こくり、と肯いた。
それを見て、おさともまた一つ肯くと、水茶屋から飛び出すように出て行った。