大江戸シンデレラ
——あの二人が、逢引しておる姿なぞ……
初めて見た、というわけではあらぬのに……
なぜ、かように涙が止まらぬのか、美鶴には皆目わからなかった。
まだ吉原の廓にいた時分、
『悪りぃ、ちょいと野暮用ができて明日はおめえさんの「供」ができねえ』
兵馬からさように云われた翌る日……
「舞ひつる」と呼ばれていた美鶴と毎日のように会っていた、あの明石稲荷で……
兵馬は——玉ノ緒と逢っていた。
『久喜萬字屋で、振袖新造やってたっ言うおなごだ。南町奉行所うちの息のかかった岡っ引きや下っ引きに調べさせたところによると……』
不意に、兵馬の父・松波 多聞から告げられた言葉を思い出す。
『あいつら、しょっちゅう人目を忍んでは、吉原の端にある御堂で逢引してやがったらしい』
——わたくしは……
何のために、松波の御家におるのか……