大江戸シンデレラ
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駕籠(かご)を呼びに行ったおさと(・・・)が戻ってきた。

おさとに支えられるようにして、美鶴は水茶屋から外へ出る。

駕籠()きの男たちが垂れ(むしろ)を上げて、すでに店の前で待っていた。

袖頭巾(そでずきん)の前を改めて深く下ろした美鶴は、さらに袖口で顔を隠しながら辻駕籠に乗り込む。

筵がばさりと下ろされ、駕籠が掛け声とともに持ち上がる。

美鶴は天井から垂らされた紐に、あわててしがみついた。

また掛け声がして、駕籠はゆっくりと歩み出した。


道中、駕籠に揺られているうちに、だんだんと心が凪いできたのか……

または、だれにも顔を見られなくなって、やっと心の底から落ち着いてきたのか……

あふれ出て止まらなかった美鶴の涙が、ようやく止まった。


——姑上(ははうえ)様に、かような不様(ぶさま)な顔を見せずに済む……

美鶴は安堵した。

武家の嫁としての「恥」であるし、なにより松波の家人たちを心配させることになる。

——おさとには、固く口止めせねばならぬな……

美鶴は一つ、深いため息を吐いた。

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