大江戸シンデレラ
玄関の上がり框に、おさとは美鶴を腰掛けさせた。
そして、美鶴を残して急いで裏手に回り、竈のある土間まで行くと、水を張った盥を抱えて戻ってきた。
「ちょいと御御足を失礼しやすよ」
おさとは土間に両膝をつき、美鶴の裾除けの奥にある足から草履と足袋を脱がせた。
抜けるように白い小さな素足が目の前に顕れる。
外を歩くと、いくら足袋を履いていたとしても往来の土や砂でどうしても足が汚れる。雨の日などは、なおさらだ。
もしそのままの足で座敷に上ろうものならば、たちまちのうちに畳の間が砂まみれとなってしまう。
外から帰ってきた主人の足を洗うのは、奉公人の役目だった。
「御新造さん……」
盥の水で手拭いを濡らして固く絞ると、おさとは美鶴の足を清め始めた。
「島村ん御家に奉公に上がってたときも、そりゃあひでぇ扱いだって思いやしたがねぇ」
美鶴が、きょとん、とした顔でおさとを見下ろす。
「そいでもまぁ、あたいと縫い物をしてるときはさ、御新造さんも時折、ふっ、と笑ってらしたがよ」
おさともまた、ふっ、と笑った。
だが、片方の口の端をほんの少し上げただけの、なんとも皮肉めいた笑みであった。
「御新造さん、ご自分で気がついていなさったかい」
おさとが美鶴を見上げる。
「松波の御家では、まーったくと云っていいほど……笑っておりなさらねぇってことをさ」