大江戸シンデレラ

とりあえず、美鶴は座敷へと広次郎を招じ入れた。

されども、おさとがまだ帰ってきてはおらぬゆえ、湯を沸かすことのできぬ美鶴では茶の一つも出せない。


座敷に入った広次郎は、当然のごとく下座に腰を下ろした。

そして、腰に手挟んでいた大小の刀を左側に、抱えていた巾着を正面に置く。

仕方なく、美鶴はとまどいながらも上座に座した。


「……松波様の大奥様より、託されたものでござる」

広次郎はさように告げると、ずしりと重そうな巾着を、すーっと美鶴の前に差し出した。


——姑上(ははうえ)様が、いったい何を……

美鶴は訝しげに思いつつも、巾着を手に取ると紐を解いた。

その刹那(せつな)(なつめ)のように大きな目がさらに大きく見開かれた。

「こ、これは……」


巾着の中には、小分けされた三つの袋があった。
一つを開くと二()金を(かしら)に一分金・二分銀・一分銀が見えた。
二つめの袋には二(しゅ)金・一朱金・二朱銀・一朱銀があった。

——吉原を出るときに久喜萬字屋(くきまんじや)のお内儀(っか)さんが持たせてくれた金子(きんす)ではないか……

その後、島村の家に着いたとたん、右も左もわからぬまま、当主の妻である多喜が預かると云うので、差し出さざるを得なかったのだ。

三つめの袋には、日々の暮らしの中で使い勝手の良い一文銭(もんせん)()文銭などの銭がびっしりと詰められていた。

この袋だけが、美鶴が手元に置くのを許されていた。

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