大江戸シンデレラ
広次郎から感じるあまりの「熱」に、美鶴はその棗の目を左右に揺らした。
やはり、どう応じてよいのか皆目判らず、そのあとは広次郎から目を逸らして、うつむかざるを得なかった。
「そなたを困らせる気は、毛頭ござらぬ」
広次郎は目を細め、やさしげに微笑んだ。
だが次の刹那、表情を改めてさように告げる。
「しからば……本日は、此れにて御免仕る」
そして、脇に置いた大小の刀を手にすると、すっと立ち上がった。
そのまま流れるような所作で二本の刀を腰に手挟み、足早に座敷をあとにする。
あわてて美鶴も立ち上がり、広次郎の背中を追ってついて行った。