大江戸シンデレラ

(へっつい)のある土間を抜けて、裏口へと向かう。

引き戸を開けて外へ出た広次郎が、美鶴に振り返った。

「おさとと女所帯ゆえ、くれぐれも用心なされまするよう」

美鶴は深く肯いた。

我が身はまだ「松波家」の者である。
なにかあれば、(すなわ)ち「松波の御家の名」に傷が付く。

「広次郎さまも……どうか、御役目(つつがな)きよう」

与力の次男坊から同心の嗣子になって、まだ間がない。

さようでなくとも、やがて島村 勘解由(かげゆ)の跡を継ぐ「隠密周り同心」は、なにかと危うきことが多いと聞く。

事実、勘解由もいったん御役目に入れば、家にはとんと帰ってこない。

「くれぐれも、お身体(からだ)を軽んぜず、どうか息災に……」

広次郎はしっかりと肯いた。

美鶴に思わず、笑みがこぼれる。

二人は互いを見つめ合った。

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