大江戸シンデレラ

「玉ノ緒のお三味(しゃみ)に、舞ひつるの舞だったらさ、玉菊も羽衣も太刀打(たちう)ちできゃしないだろね」

廓の二階の座敷で稽古をつけていたお師匠(っしょ)さんが、愛弟子たちに向けて切長の目を細めた。

島田くずしの髪、深川鼠の着物に墨色の羽織姿の染丸(そめまる)は、かつて「江戸一の辰巳芸者」と名を轟かせた、粋で伝法な(あね)さんだ。

江戸の東南(辰巳)に位置する深川木場の辰巳芸者は「芸は売っても身は売らぬ」が心意気の気風(きっぷ)の良さが信条だった。

「けどね……
舞ひつるのお三味(しゃみ)に、玉ノ緒の舞は……」

だが、その染丸の声音が一変する。


「……一昨日(おととい)来やがれ、ってんだ」

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