大江戸シンデレラ
「そ、そちは……もしや……」
兵馬は驚きのあまり、目を見開いていた。
「いや、まさか……さようなことはあるまい」
だが、大きく左右に頭を振る。
目の前のおなごが「舞ひつる」のはずがない。
吉原の廓で生まれ育った妓が、かように武家の男の妻となって嫁げるわけがない。
それに、兵馬の「妻」となった者は……
——「美鶴」と名乗ったではないか。
恐らく、他人の空似であろう。
兵馬の凍えきった低い声だけが、閨の場に響く。
「そちの顔など、金輪際見とうない。
……即刻、この場から立ち去れ」