大江戸シンデレラ

兵馬は開けられた裏口から(へっつい)のある土間へ、すっと身を滑り込ませた。

急いで奥へと引き返して行ったおきく(・・・)を待っていると、しばらくして派手さはないが上質そうな着物を纏った女が出てきた。

「……兵馬殿、如何(いかが)なされた」

()の屋敷の主人(あるじ)の奥方である芙美(ふみ)だった。
兵馬の母の志鶴とほぼ同じ歳頃のおなごである。

「伯母上、先触れもなく御無礼(つかまつ)ってごさる」

兵馬は頭を下げ、非礼を詫びた。


(おもて)を上げられよ。此処(ここ)はそなたの家も同然、遠慮は無用にてござりまする」

武家の妻である芙美は、火急のことかと察してすんなりと応じた。

そして、兵馬を主人のいる奥の間に案内(あない)するよう、おきくに命じた。

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