大江戸シンデレラ

当家の家人が使う部屋では間違いなく一番立派な座敷に、兵馬は通された。

「おう、兵馬か」

床の間を背に、文机(ふづくえ)の前に座していた当主が顔を上げた。

母・志鶴の兄、佐久間(さくま) 帯刀(たてわき)であった。

されども、甥の返事もろくに聞くことなく、すぐに()の目を落とす。

先程から、白紙の巻物を左手(ゆんで)に、右手(めて)ではすらすらと筆を走らせていた。

「伯父上……本日は一段と筆が進んでござるか」

兵馬に声をかけられて、帯刀は再び目を上げた。


「此度もまた、(ちまた)での話の種を持ってきておるのか」

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