大江戸シンデレラ

「……しからば、先達(せんだっ)(それがし)の耳に入った、とある話がござらぬでもないが」

「兵馬、本当(まこと)か」

帯刀が身を乗り出した。

「されども、そのまま伯父上のお耳に入れるには、ちと仔細(しさい)がござってな……」

兵馬が腕を組んで考え込む。

「おい、勿体つけずに(はよ)う云え」

思わず、帯刀は声を荒げた。


そもそも、甥であるこの兵馬に、戯作者と云う「二足目の草鞋」を気づかれたのは、帯刀にとって一生の不覚であった。

それは、妹である兵馬の母・志鶴(しづる)が二人目の子を(はら)に宿し、この佐久間家に里帰りしていた折に起こった。

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