大江戸シンデレラ

振袖新造・玉ノ緒は、瓜実顔ですらりとした体躯(からだ)の、まるで鳥居清長の美人図から抜け出てきたかのごとき風貌(なり)であった。

箏や鼓などの鳴り物に秀でていて、特に三味線はこの(よわい)にして芸妓であっても裸足で逃げ出しそうな腕前だ。

されども、唄はともかく舞となるとまったくの不得手で、踊りのお師匠(っしょ)さんの頭痛の種であった。

長い手脚が巧く扱えずに邪魔をするのだ。
もったりとして風流からは縁遠いそのさまは、どうにもこうにも(つたな)い。

加えて、手習いは精進の甲斐あって近頃美しい()をものし、御座敷では狂歌や川柳をすらすらと詠めるようにはなってきたが、和漢書を読む学問の方はまだまだ不得手なままだ。

この調子では、部屋待ちの遊女として初見世に出したところで、世に()けた上客の御大尽たちを話芸で満足させることができるかどうか……


姉女郎の玉菊は、もしかすると玉ノ緒は鳴り物に特化した芸妓の方に才があったか、と今となっては(せん)なきことを思っていた。

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