大江戸シンデレラ
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大通りにある賑やかな店々を抜けて、兵馬は奥まった細い通りにある水茶屋を目指していた。

まばらな人通りの中、すれ違った商家の手代のような者たちを交わしつつ、先を急ぐ。

御役目が非番の本日は、腰には二本差しの刀を手挟(たばさ)んでいるとは云え、袴をつけぬ身軽な着流し姿であった。


「ちょいと、御免よ」

暖簾をパッと払って、水茶屋の内へ声をかける。

「へぇ、らっしゃい。何人さんで」

縞の長い前垂れ(前掛け)をした茶汲み娘が出てきた。

「二人だけどよ……伊作から聞いてっかい」

兵馬がさように告げると、

「あっ、伊作の親分さんの……」

合点がいった茶汲み娘が肯いた。

「へぇ、お連れさんはもうお越しで、一番(いっち)奥でお待ちんなっておりやす」


兵馬は店の奥の方へ目を遣った。

すると、一番奥の小上がりから若いおなごが、ひょいと顔を出した。

羽振りの良い商家の若女将であろうか。
一目見てたいそう値の張るに違いない綺麗(きれぇ)な着物を身につけていた。

おなごは兵馬の顔をみるなり、まるで大輪の牡丹が花開いたかのごとき笑顔を見せた。

兵馬は、引き寄せられるようにおなごの(もと)へと駆け寄った。

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