大江戸シンデレラ

吉原に生まれついた舞ひつると違って、玉ノ緒は「売られてきた」。

故郷(くに)は秩父だと云う。

玉ノ緒がまだ「おゆ()」だった時分、母親が流行(はや)り病であっけなく死んじまったのが運の尽きだった。

父親の酒量が増え、百姓仕事も滞り、果てには博打に手を出すようになった。
すると、見る見る間に負い目(借金)が膨れ上がり、とうとう亡き女房の忘れ形見である娘を女衒(ぜげん)に売る羽目になってしまった。

田舎ではなかなかの器量良しと云われて育ったおゆふ(・・・)は、吉原に連れられてきた。

だが、まだ十歳(とお)になる前で、月の(さわ)りが来ないまだ女とは云えぬ「子ども」は見世には出せぬ。

そこで、見世を差配する内儀(おかみ)が、器量の悪くないおゆふ(・・・)を「振袖新造」として売り出そうと仕込み始めた。

ちょうど「秘蔵っ子」の舞ひつると同い年だったおゆふ(・・・)を、良い対敵(かたき)として育てるのは見世としても打って付けなことのように思われた。


果たして、おゆふは振新として見世に出るために、血の滲むような精進を重ねて「玉ノ緒」となった。

負けん気だけは、だれにも譲れない。

特に「生え抜き」の舞ひつるに対しては……

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