大江戸シンデレラ
江戸町二丁目に廓を構える久喜萬字屋は、大見世だ。よって、大籬が赦されている。
籬とは、表通りに面した一階の、女郎たちが客引きのためにずらりと並ぶ「張見世」にある目隠しの格子のことである。
大籬の大見世は全面が格子になっていて中の女郎の顔がわかりづらいが、中籬の中見世は右上の四分の一が空いているため其処から覗けば見える。さらに小籬の小見世などになると、上半分の格子がすっかりなくなるから見放題だ。
格が落ちる見世になるほど、女郎たちの顔が丸見えになり、品のない下卑た見世となる寸法だが、実は買う客の方にとってはしかと「見えた」方がしくじりが防げて好都合でもある。
さりとて、流石に格の高い見世になればなるほど、いい女が集まってくるのが世の常だ。
もっとも、呼出や昼三などの「遊女」は張見世には座らない。さような客引きなどをせずとも馴染みの客がきっちりついているからである。