大江戸シンデレラ
庭先で跪いていた与太に、兵馬は縁側まで上がるように命じた。
与太は畏れながらも縁側に上がり、板張りの床にきちっと正座する。
「……で、なにが判ったんでぃ」
畳が敷き詰められた座敷の内で、どかりと胡座をかいて座す兵馬が問うた。
「へぇ、そいつがでさ……」
早速、与太が話を始める。
「淡路屋の若旦那だけじゃのうて大旦那まで動いてくだすって、淡路屋総出で『舞ひつる』の行方を追ったそうでやすが……」
「……判らずじまいか」
——大江戸屈指の廻船問屋「淡路屋」でも力及ばず、か……
「いや、舞ひつるが今居る町なら判りやしたそうでさ」
——な、なんだとっ。
「そりゃあ、何処なんでぃ」
脇息に置いていた腕をぱっと外し、兵馬は身を乗り出した。
「あいつぁ今、何処に居るっ云うんだい」
すると、忽ち与太の顔が曇った。
「ところが、その町ってぇのが……」
与太が告げたのは、町家が犇めく界隈からは離れた、周囲を真っ黒な渋墨で塗られた杉板に覆われた「黒塀」の家が立ち並ぶ町であった。
つまり——
町家の旦那衆が入れ上げた色里の妓を落籍かせたあと、家人に知られぬようひっそりと囲ってやっている「妾宅」が立ち並ぶ町であった。