大江戸シンデレラ
「そんでもって……淡路屋の大旦那が『どうにも納得がいかねえ』って云っておりやすんでさ」
与太はさらに続けた。
「大旦那は『久喜萬字屋のような大見世の振袖新造を、大枚叩いて身請けすりゃあ、だれだって世間に自慢しちまいたくなるもんなんだがなぁ』云ってんでやす」
現に、舞ひつると同じ振新の玉ノ緒を身請けした淡路屋は、世間には鼻高々だ。
隠すそぶりなど、微塵もない。
「もしかすっと、なにかしら『裏』があるかもっ云うこって、舞ひつるが何処のどいつに身請けされたか調べさせなすったんでさ。したら……」
兵馬はさらに、ずいっ、と身を乗り出す。
「どうやら父親に落籍かれた、ってとこまでは判ったんでやすが……」
「いくら『親』が落籍くとは云え、身請けの金子は大金じゃねぇか」
親が娘を身請けする場合、身請金は破格の安さになる。うまくいけば半値ほどだ。
それでも、娘を身売りするくらい金に詰まった親が到底払える金子ではないゆえ、滅多に聞く話ではない。
「舞ひつるの死んだおっ母さんは久喜萬字屋の呼出(花魁)だったんでやすが、父親ってのがどうもお武家のお方のようでやして……」
「あぁ、そうらしいな。
だけどよ、武家にゃ御公儀への面目ってもんがあるのよ。
んなことすりゃあ、組屋敷での外聞が悪うなって、隣近所へ顔向けもできなくなっちまわぁ。
それに、武家だから云って皆が皆、大金持ってるとは限らねえ。
むしろ、商売やってる町家の者の方が、貧乏侍よかよっぽど金持ちだってんだ」
兵馬は腕を組んで考え込んだ。
「とならば……父親がおいそれと身請けなどできるはずもあるまいが……」
知らず識らず、言葉が堅くなっていった。