大江戸シンデレラ

「そいで、舞ひつるの父親を突き止めようと、さらに調べさせなすったんでやすが……」

兵馬は腕を解いて、かばりと身を起こした。

「父親は……何処(どこ)御家(おいえ)の者だ」

「それが、どうやら……しつこく調べ回ってんのが、お(かみ)に知られちまったようで……」

与太の顔が口惜しさのあまり歪んだ。

「淡路屋を贔屓にしてなさる御武家様側から『横(やり)』が入ったんでやす」

おそらく、これ以上嗅ぎ回るようなら淡路屋を「御用達(ごようたし)」から外すとでも(おど)されたのであろう。

「だもんで、父親の名は……とうとう判らずじまいでさ」

流石(さすが)の淡路屋も町家ゆえ、相手が武家ともなれば手も足も出ない。


「……相判(あいわか)った」

されども、兵馬は同じ武家である。

しからば、南町奉行所の力を使ってでも、とことん調べるまでだ。

——たとえ「北町」であろうと頭を下げ、助けを仰いだとて、一向に構わぬ。


「で、その横槍を入れた『御武家様』とやらは、何処の何奴だ」

兵馬はにやり、と笑った。

口を挟んでくる、と云うことは、舞ひつるの父親に関わりがあるゆえであろう。

飛んで火に入る夏の虫とはこのことだ。
其処(そこ)を手掛かりに探っていけば、必ずや辿(たど)り着けるに相違ない。


「へぇ、その御殿(おとの)様は……」

『御殿様』と云うことは、国許(くにもと)の藩主、つまり「大名」である。

——参ったな、「殿様」か……

兵馬は奉行所で御役目をいただく身であるとは云え、所詮町方役人である。
大名が相手では、いくらなんでも荷が勝ちすぎる。

「御屋敷が……青山緑町にあるそうでさ」

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