大江戸シンデレラ
別に、初めて見知る客に初花を散らされるのが厭だというわけではない。
舞ひつるは日の本一の色里である吉原で、遊女の娘として生まれ、育ったのだ。
産湯をつかったときから身を売る行く末しか赦されぬ我が身の上を、当然至極のことと得心している。
むしろ、諸国から売られてきたまだ歳若い女子たちが、初花を散らさせるのに抗うさまを見るにつけ、「道理の通らぬ苦界でせんなきこと」と醒めた目で見ていたくらいだ。
さようなことよりも、突き出しであらばろくに御座敷の実地も積まぬまま、いきなりいっぱしの昼三として客の前に出ねばならぬことに、どうしても不安が拭いきれなかった。
——あのおっ母さんの娘として、失敗じるわけにはいかぬなんし。
ならば、今は振袖新造として姉女郎に付いてしっかりと「修行」をした方が、初見世では必ずや「流石は、かの胡蝶の忘れ形見」と迎えられるに違いないと考えた。