大江戸シンデレラ
二階の座敷に、三者の唄声とお三味を奏でる音が響く。
〽︎ 忍ぶ恋路はァ さてはかなさよォ …
ベベン、と三者のお三味が重なる。
〽︎今度逢ふのが命掛けェ 汚す涙の白粉もォ…
吉原の苦界に生きる女の、道ならぬ恋への切なさを歌う端唄だ。
〽︎その顔かくす無理な酒ェ……
三者がベベンベンベン、と撥を打つ。
——だが。
そのうちの一棹の音が、わずかにずれた。
舞ひつるの表情が微かに歪む。
隣に並ぶ玉ノ緒は、染丸の音色に合わせて寸分違わず弾いていたため、隣で涼しい顔をしている。
「……舞ひつる」
染丸姐さんが、ぎろりと睨む。
「おまえさん、また失敗じったね」
そのとたん、舞ひつるの表情が盛大に歪んだ。
唄の方はまだいい。むしろ、玉ノ緒よりも得手としていて、舞の次に好んでいる。
どうにもこうにも、不得手なのがお三味だ。
右手の撥の当て方に気を取られると、左手の棹の勘所が咄嗟に押さえられず、今度は左手の勘所に気を遣ると、右手の撥がお留守になってござんす、と染丸からぴしゃりとやられる。
——同じ両の手を使う箏であっても、かようにまではならでなんし……