大江戸シンデレラ
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下っ引きの与太から聞いた、舞ひつる——(いな)や「美鶴」が身を寄せていると云う町へ、兵馬は影丸を走らせた。

昼日中(ひるひなか)であるがゆえ、いくら与力といえども、人々が行き交う往来を馬で駆け抜けるわけにはいかぬ。
少々遠回りであるが、人通りの少ない裏道を通らざるを得ない。


もうすぐその町に着く、と云う手前で兵馬は宿(しゅく)を探した。其処(そこ)の馬房に影丸を預けるためだ。

目立つ馬を連れて妾宅が並ぶと云われている界隈へ入っていくのは、流石(さすが)に気が引けた。

宿で馬子に影丸を託したあとは、目指す先まで徒歩(かち)である。

馬に跨りやすいのと併せて存分に歩けるように、今の兵馬は紺鼠色の着流しに平袴姿であった。

背負った風呂敷包みの紐をしっかりと結び直して、兵馬は歩み始めた。


道すがら、兵馬は今まで知り得たことを頭の中で思い返す。

——御前様は、あいつを側室になさるわけでもござらぬのに、なにゆえかようなことを……

吉原の(おんな)である「舞ひつる」を武家の子女の「美鶴」に仕立てるため、息のかかった者たちを使って養子縁組を繰り返したと思われる。

兵馬は父の多聞から、妻になる美鶴のことを『さる藩の江戸屋敷で生まれ育ったと云う「藩士の娘」だ』と聞かされていた。

『さる藩』と云うのはおそらく、御前様——浅野 近江守が治める安芸国・広島新田藩のことであろう。

——父上とて、どこまで存じてござるのか……

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