大江戸シンデレラ

そのとき不覚にも、木の陰に屈んで様子を伺っていた兵馬の身体(からだ)が揺れた。

(かし)いだ上体を支えるため、咄嗟(とっさ)に足で踏ん張る。

すると、足元の茂みに落ちていた枝木を思わず踏んでしまった。

がさり、と音が立つ。


「何奴っ」

次の刹那、広次郎が目にも止まらぬ早さで腰に手挟んだ長刀をすらりと引き抜いていた。

美鶴を庇うように背にし、正眼の構えをとりつつ辺りに目を走らせている。


兵馬は仕方なく、身を潜ませていた前栽の木立ちの陰から立ち上がった。

そして、こちらも腰に差した太刀(たち)(つか)に右手を掛けながら、広次郎に告げる。

「……そいつぁ、おれの方が知りてぇな」

かちり、と鳴らせて、左手の親指で刀の(つば)を浮かせる。


「……だ、旦那さま……」

広次郎の背後で、美鶴が真っ青になってつぶやいた。

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