大江戸シンデレラ
そもそも、吉原ではお三味や鼓などの鳴り物は芸妓の姐さんたちの「専売」で、遊女や女郎が手出ししてはいけない「聖域」だった。
下手に手を出して、もし芸妓の姐さんたちが御座敷に招ばれなくなりでもしたら、姐さんたちはお飯の喰い上げになってしまう。
互いに持ちつ持たれつの「分業」なのだ。
ゆえに、舞ひつるは我が身ひとつで芸のできる「唄」と「舞」さえできればそれでよい、と思っている。
されども、吉原遊女の最高峰「呼出」を目指すとあっては、さような心持ちでは問屋が卸さぬ。
染丸の厳しい稽古は、昼日中みっちりと続いた。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
稽古を終えた舞ひつると玉ノ緒に、夜見世までの時間はほとんど残されていない。
見世の中に設けられているお湯屋(風呂)に飛び込む勢いで入って身を清めたのち、夕餉に用意された握り飯と汁物もほどほどに、化粧師に可憐な中にも艶やかな貌を施され、着付けの男衆によって「振袖新造の証」真っ赤な振袖を身に纏う。
暮れ六つ、夕闇迫る刻がやってきた。
今日もまた、久喜萬字屋の夜が始まる。