大江戸シンデレラ
だが、持ち場に戻れ、と云われても、武家の証である刀がないと御役目が果たせぬ。
「……刀を忘れるんじゃねぇぞ」
兵馬はすかさず云い添えた。
「かたじけのうござる」
広次郎は先刻差し出した二本の刀を手に取ると、立ち上がって左腰にそれらを手挟んだ。
「しからば……此れにて御免」
この場に美鶴を一人置いて去って行くのは、無念至極である。
さすれども、立ちはだかる身分の前では如何することもできかった。
広次郎は後ろ髪を引かれながらも、その場をあとにした。