大江戸シンデレラ
「ち、違いまする……」
美鶴は首を左右に振った。
「かような下賎の名など、わたくしは聞いたこともござりませぬ」
さもすれば、震え上がってしまいそうになる声を励まして申す。
「な、何の証があって、旦那さまはさようなことを……」
「舞ひつる」が吉原での我が身であったことは、絶対に知られてはならないことであった。
もしも御武家様を欺いたと露わにならば、御公儀より如何なる沙汰が下されて如何ほどの仕置きが命じられるか。
身を寄せていた島村家はもちろん、密かに養子縁組を重ねた武家の御家にも塁が及ぶに相違ない。
美鶴の胸の裡に久喜萬字屋のお内儀から、
『あたしらは……たとえ会えなくなっても、一蓮托生だっつうことを決して忘れるんじゃないよ』
『向こうでは、おまえさんが廓の妓だったっつうことを……絶対に知られないようにしとくれよ』
と、釘を刺されたことが甦ってくる。
——よりによって、「若さま」に勘付かれてしまうとは……
兵馬がちっ、と舌打ちをした。
「あいつとまったく瓜二つの顔だってんのに、往生際の悪ぃ奴だ。
……そいでもまだ『証』を見せろっ云うんだな」