大江戸シンデレラ
すると、兵馬は背に襷掛けにして括り付けていた風呂敷包みに手をかけ、結び目を解いた。
「うちのおっ母さんから、おめぇに渡せっ云って頼みごとをされてんのは……なにもあの同心だけじゃねぇぜ」
さように云うと、風呂敷包みを美鶴の方へ突き出す。
美鶴は両の手でそれを受け取った。
そして、風呂敷包みの中を覗き込むと……
「も、もしや……」
そこには、兵馬のために美鶴が縫った浴衣とともに、見慣れた黄八丈の着物があった。
まさしくそれは——
美鶴が久喜萬字屋で普段着にしていた、黒繻子の掛け襟が付いた黄八丈だった。
しかも、兵馬と明石稲荷で逢っていた折に必ず着ていた着物だ。
二人は御座敷で会うたことは一度もないゆえ、兵馬は「真っ赤な振袖姿の舞ひつる」は知らぬ。
ゆえに、兵馬にとっては此の黄八丈の姿こそが「舞ひつる」であった。
——島村家へ参ったとたん取り上げられ、もう二度と戻ってくることはあるまい、と思うておったが……